六甲最高峰トイレ

基本実施設計,意図伝達業務,兵庫県神戸市,2020.10
新築,鉄骨造(屋根CLTパネル),一部木造,平屋建,延床267.91 m2
公衆トイレ,休憩スペース,園地

総括意匠設計・意図伝達:ofa/小原賢一+深川礼子(担当:小原、深川、田村)
構造設計・意図伝達:有限会社桃李舎
設備設計:長谷川設備計画
ランドスケープデザイン・意図伝達:株式会社エスエフジー・ランドスケープアーキテクツ
照明デザイン:株式会社加藤久樹デザイン事務所
建築施工:有限会社ビームスコンストラクション
機械設備施工:アイオイ設備工業株式会社
電気設備施工:株式会社摩耶電気工業所
撮影:小川重雄(【※】のみofa)

JIA優秀建築選100 2021-2022(日本建築家協会) 
第25回木材活用コンクール 木材活用賞(日本木材青壮年団体連合会) 
iFデザイン賞2022(iF International Forum Design GmbH) 
第23回人間サイズのまちづくり賞 奨励賞(兵庫県)
地域材利活用建築デザインコンテストin兵庫 入賞(ひょうご木のすまい協議会)
ウッドデザイン賞2021 ソーシャルデザイン賞 受賞(ウッドデザイン賞運営事務局)ウッドデザイン賞受賞作品データベース 
日本空間デザイン賞2021 ショートリスト 選定
([一社]日本商環境デザイン協会 [一社]日本空間デザイン協会)
ティンバライズ T-1 ホームコネクター賞2020 受賞 (NPO法人 team Timberize)
JTAトイレ賞2023 奨励賞(一般社団法人日本トイレ協会 )
第22回環境・設備デザイン賞 都市・ランドスケープデザイン部門 優秀賞(建築設備綜合協会)

神戸の都市の魅力の一つである六甲山の価値向上、環境整備の一環として、六甲山頂エリアに新設された公衆トイレ・休憩スペースと園地の計画です。2017年にプロポーザルで選定いただき、基本実施設計と意図伝達業務を担当しました。
敷地は六甲山の国立公園特別地域内にあたります。周辺の山並みに呼応するように折れつながる屋根が、大きな家具のようなベンチの上に軽々と浮かぶ、のびやかな空間をつくりました。木の大きなベンチの後ろにトイレ機能を持つようにつくった小屋部分は屋根と縁を切り、男女多目的を分けて配置したことで風と光のとおる気持ちの良い空間となりました。六甲の自然環境に調和するよう木や仕上材の色合いをコントロールしています。建物全体の高さを抑え、伏せるように自然の中に配置したことで、周辺の環境になじむ全体像としました。

CLTの薄く軽い屋根は、繊細な鉄骨柱によって空中に浮かび、シャープで繊細な軒先のラインを作っています。折れつながる事で、天井高さが場所によって変わって、空間に抑揚を作り出します。

足元には山際の自然を感じながらゆったりくつろげる大きなベンチを設え、その後ろにトイレがある構成です。屋根の両端下には同様の単独ベンチも設けました。下見板張りが連続するようにディテールをデザインし、大きな家具が集まって空間を作っているようにつくりました。ベンチは大きな台形とすることで、座面の奥行きや背の角度が多様に生まれ、そこでの休憩の居方のスタイルもまた多様に発生する仕掛けとなっています。屋根のタニの集まる部分からは雨水を集めています。折れつながる屋根は集水のための形でもあります。上下水道のない敷地で、気持ちよく安心して使えるトイレをつくりたいと、手洗い水は雨水を利用し、洗浄水は土壌微生物による浄化システムを採用して循環利用しています。

CLTの屋根版の水平接合部はGIR(グルードインロッド)を採用することによりつなぎ目を見せないおさまりになっています。CLTの最大幅にかかわらず大きな一枚の板として、おおらかですっきりとした屋根下空間を実現できました。大きな屋根の下に、ボリュームを分割して配置することで、谷側へも見通しが取れ、風通しの良いスペースです。屋根版 CLT は兵庫県産材指定のヒノキスギ、トイレ部分の外装材およびベンチは国産スギとし、一部は神戸市が森林維持の一環として伐採・保管する六甲山の間伐材を利用しました。

トイレの出入り口には引込型のドアを設え、夏季は開放し、冬季は凍結の対策として閉められるように作っています。

屋根とトイレ部分の外壁は縁を切り、その間を高窓とすることで自然の光を内部に取り入れています。
山頂付近は冬季は積雪もあり、気温も下がります。トイレブースは外壁に面さない室内の中央部分に配置して、冬季の気温低下の影響を避けています。間接照明を施して、天井の木の肌がきれいに見える工夫をしています。

【※】

南側の山頂を望むレストスペース。ベンチに深く寝そべって見上げると、軒先で切り取られる森のラインが、山頂側の新しい景観をつくっています。土間の曲線のおおらかで引き締まったラインが園地全体に気持ちの良い美しさを生んでいます。

段差やベンチ、屋根下のありかたが、多様な居方につながっています。敷地は六甲山脈の東端にあたり、最高峰から降りたところです。もとは砂利敷きで、時々駐車場に使われるだけの場所でした。

森の端部は、芝の園地からクサハラを経て植生をつなぎ、グラデーションのように作っています。クサハラ部分は種採集、育苗とステップを踏み、竣工後に現地へ苗を戻しています。

浅く折れつながる屋根を、周辺の緑の中に伏せるように配置しています。洗浄水や雨水の循環槽などはすべて土中として、大勢が休憩できる園地として広く確保しました。

24時間利用可能なトイレであり、市街地から近く車でのアクセスも可能なため、夜間の利用もあります。できるだけ気持ちの良い場所であるように、安心感と美しさを両立する照明デザインを丁寧に行いました。
内部から高窓を通してあふれ出る光と、外部からの光で屋根版のCLTの木の暖かみのある色をよりきれいに見せてくれています。クサハラプロジェクトは、プロポーザル当初からの提案で、六甲山系の草本類によって芝の園地から森への連続性を作りました。市民や利用者が環境の維持にかかわることで、山の環境を消費するだけでなく育てる動きにつなげたいところです。詳しくはこちら(タネトリワークショップ苗植付)でレポートしています。今はまだ小さな苗ですが、都市に近い山の環境維持のあり方を考えるきっかけになればと思います。