特別養護老人ホームさくらガーデン

基本実施設計監理,兵庫県神戸市,2021.08
新築,鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造,2階建,延床 3819.61㎡
特別養護老人ホーム70室,ショートステイ10室,デイサービス
CASBEE評価Aランク取得

統括意匠設計監理:ofa/小原賢一+深川礼子(担当:小原,深川,山下)
構造設計監理:株式会社構造計画プラス・ワン
設備設計監理:株式会社アイ設計(井上,高橋,西原)
施工:株式会社新井組
照明デザイン:株式会社 加藤久樹デザイン事務所
グラフィックデザイン:SASA ATORIE
設計協力:はな建築事務所
写真クレジット:鈴木研一 (※)のみofa

ユニットケアへの移行に合わせ、既存施設の建替えとして計画された特別養護老人ホームです。建物はユニットケアのあり方を体現し、各ユニット及びデイサービス等のパブリックスペースと、事務所などのバックスペースがそれぞれの屋根を持ち、それらを寄せ集めた小さな集落のような配置としました。

敷地は神戸市の北端の尾根にあたります。たくさんの既存の桜の向こうに六甲の山並みを望む素晴らしい環境です。東、南側の緑豊かで見晴らしの良い方向に沿って眺望をとり、日々の暮らしに四季の変化を添えています。

全体で80室の個室を、10室1ユニットとして、1,2階に4ユニットずつ配置した構成です。ユニットの共同生活室や廊下には、入居者の方が「家」と感じていただけるように、見通しをとりながらも小さな凹凸や角度を持って、多様な場所を作っています。それぞれに居場所が見つけられるよう、セミプライベートスペース、セミパブリックスペースを離散的に配置しました。場所ごとの窓を通して見える景色が広がりと彩りをもたらしています。

住む方の健やかな毎日を支える空間と福祉の地域づくりへの貢献、職員の働きやすさが両立する、これからの福祉の場所です。

屋根を分割して低めに抑えた勾配屋根が重なる風景。建物は外断熱としました。空調負荷を下げるとともに、内部の温度変化を抑え、穏やかな環境を作っています。

大きめに張り出したエントランス庇で、車での利用者を迎えます。雨の日も安心なエントランスです。

中庭まで視線の抜けるエントランス受付カウンター。落ち着いた色合いと素材感。視線の先に中庭の明るさがあることが、安心感につながります。

地域交流スペースは中庭まで一体的に利用できるパブリックスペースです。地域の方との交流やイベントの企画など、外へ出かけにくい暮らしの中で、ハレの場として設えました。

吹き抜けでつながる1,2階。地域交流スペースのハレの雰囲気を高めるとともに、2階からもイベントに参加することができます。

中庭は普段の暮らしの貴重な外部空間として、風に揺れる葉や香りのある花が咲くなど、四季の変化を感じられる木を選んで植栽しました。

ユニット入口はくらしの玄関としてここで靴を履き替えます。玄関らしく、ユニット名の表札と玄関灯を設えました。

玄関内は各ユニットでタイルの種類を変えて、それぞれに個性的で家の顔になる雰囲気を作っています。

共同生活室は、できるだけ食事をこの場所で準備できるよう、大きめのアイランド型のキッチンを設えました。壁面は一部を玄関と同じタイル仕上げとし、楽しみのある「セミパブリック」をイメージしたスペースとしました。

共同生活室からは、六甲の山並みや桜の谷など、方角によってのびのびと気持ちの良い眺望が開けます。車いすでの寄り付きに合わせて、窓台の高さを少し低めに設えています。外断熱の入った壁の厚みによって、窓台は少し腰掛けたりもできる奥行きです。

ダイニングの向かいには談話スペースを設けました。一回り小さいセミパブリックです。空間サイズのバリエーションと、プライベートーパブリックのレベル設定の掛け合わせで、多様な居場所をつくることを心掛けました。

外部は非常時にも活用できるテラスが連続し、共同生活室の前は大きく張り出しました。内部床とフラットにつながり、車いすでも出やすいテラスは、日常生活の中で身近な外の居場所になります。

東側の1階は、松の緑の濃い陰影と桜の取り合わせが楽しめるテラスです。

個室には手洗と鏡のほかに収納や読書灯も設えました。大きめの面積と大きな開口でゆったりした印象です。ベッドサイドには濃い色合いの木を設えました。壁の痛みを抑え、室内に落ち着きが生まれています。

廊下はスタッフからの見通しを確保しながら、細かい凹凸によってプライベートの雰囲気をつくり、いくつかのベンチ作って、ちょっと腰を掛けられるセミプライベートのスペースを設けました。

デイサービスは勾配のある高い天井にハイサイドライトをとり、自然光を取り入れた明るい空間とし、天井の勾配で場所の変化を作りました。お昼には奥の小窓がカウンターとなってランチが提供されます。

入浴の時間がくつろげる楽しいものであるように願って、浴室はすべて光庭に面し、外の光と空気に触れられる窓を設けました。

廊下は地窓や高窓を工夫して、できるだけ自然光で明るくしています。緑や空が見えるなど、奥へ歩く際の不安感を減らすつくりとしました。

2階から見下ろす地域交流スペース。地域の方と一緒にコンサートやクリスマス会などイベントが計画されています。普段はラウンジのように設えて、訪問される方やご見学の方の対応などにも使われています。

中庭の夕景は、あたたかな光が地域交流スペースからあふれてきます。中庭側のお部屋からも空や光の変化が見えています。

エントランス周りには各部屋や共同生活室の光がこぼれています。地域の中の安心の光でもあります。

穏やかな光と多様な居場所のある大きな家は、住む方の健やかな毎日を支える空間と福祉の地域づくりへの貢献、職員の働きやすさが両立する、これからの福祉の場所です。

設計と並行してロゴもデザインしました。マークは建物の構成を表しています。暮らす人、働く人を考えて少しずつ傾けたプランをそのままシンボルとして、印象的なイメージができました。

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お風呂に入る時間が楽しみになるように、浴室には「さくら、わかくさ、つき、そらの湯」と名前が付きました。名前に合わせてのれんをデザインし、宇奈月温泉総湯のご縁で金沢の染元平木さんに作っていただけました。今回もデザインでお願いしたイメージが鮮やかに出ています。(※)